オンラインフェス2022レポート「コーチング×音楽教育」ゲストスピーカー 木村彰宏 氏

2 授業コラム

ゲストスピーカー

 木村 彰宏 氏

 ・軽井沢風越学園
 ・プロコーチ ファシリテーター

 学校の主役は子供、学習者主体の学び。教員ならば、そのような教育の在り方を目指して日々、目の前の子供たちと向き合っているのではないだろうか。一方で、多岐にわたる教育内容や、学校の多忙さにより、日々時間に追われ、効率性を重視せざるを得ない状況も多く見られる。子供たちへの教育、また、教員の人材育成等においても、私たちはどのように相手と向き合い、関わり、育てていくことが肝要なのだろうか?
 このイベントでは、プロコーチとして、他業種の方のコーチングを多く実践されている木村彰宏氏をお迎えして、「コーチング」の概要についてお聞きすることで、教育ひいては音楽科教育との親和性や、その可能性について考える貴重な機会となった。

“コーチング”とは?

〇 「コーチング」のイメージは? 

 はじめに、木村氏から、「コーチングと聞いてイメージすることは?」という問いかけがあった。参加者からは、「部活動」、「学級経営」、「心理的アプローチ」、「ティーチングとは違う」などの回答があった。

 教員ならば、一度は聞いたことがあるワードであると思うが、実はあまり詳しくは知らないという方も多い”コーチング”。この「なんとなくは知っている」を是非一歩進めて、深めてもらいたいというのが今回のねらいでもあり、私たちスタッフの希望でもあった。

〇 「コーチング」とは

 木村氏によると、様々な企業や団体によって定義は様々であるという。今回は、学校教育と親和性のある「Co-Activeコーチング」から定義を見てみようということであった。それによると、コーチングとは、

 ”話し手(以下、クライアント)自身に焦点を当てて関わるコミュニケーションであり、その目的はクライアントの気づきから生まれる意識と行動の変化を促すことです。”とのことであった。

 つまり、行動変容だけをねらうアプローチではないということだ。そして、答えや手段は相手がもっているものであり、コーチ側が何か方法を決めたり、教えたりすることではないと強く主張された。

 この説明を聞き、私たち音楽科教員はきっと自身の授業における子供との関わりと照らして考えたに違いない。質問やフィードバックを行うが、原則アドバイスはしない。相手が自分で気付いて、意思決定し、行動し、目標達成する。これらのことは、教師として “そうありたい” と思っているが、現実なかなか “そうはいかない” という方が多いのではないだろうか。そのような私たちにとって、次のセクションはとても参考になるものであった。

「コーチング」と「ティーチング」の違い

 “イチローに対して、ティーチングはできないけど、コーチングはできる”

 ハッとさせられる言葉であった。技術は教えられないかもしれないが、彼にどうしていきたいか「問う」ことはできるということ。ともすると私たちは、どうしていきたいか子供たちに問うこともせず、技術を一方的に教え込むことに一生懸命になっているきらいがあるかもしれない、そんなことを見つめさせられた。

 さらに、”相手の状況に合わせた関わり方が必要である“と補足が行われた。全てをただ相手に委ねるわけではない。 “学級経営で考えても、四月から全てを子供たちに任せたりはしないよね?” という例えはとても分かりやすかった。つまり、”コーチングは万能ではない” ということ。コーチングのことを知り尽くされた木村さんから強く主張されたこの言葉は、とても説得力のあるものであり、だからこそ、相手が今どのような状況、状態なのかを把握すること、把握しようとすることはとても大切なことであるとあらためて考えさせられた。コーチングやティーチング等のバランスが大切であることは、心しておきたい教師としての在り方であると感じた。

「コーチング」のマインドセットと代表的なスキル

  コーチングにおけるマインドセットについて確認するにあたり、以下の言葉が紹介された。

 ”人はもともと想像力と才知にあふれ、欠けるところのない存在である”

  これは、逆に考えると、”あなたは不完全な存在だから、こっちが導きますよ”となってしまう。私たち教員は授業をするにあたり、どうしても到達度評価を意識するがあまり、子供たちを不十分な状態として見てしまうことがある。たどり着かせたいところがあり、そこに進んでいけない時には “躓いている” という表現もよく使う。果たして本当にそうだろうか。子供たちはそのままで瑞々しい感性をもっていて、溢れんばかりの創造性を発揮しようとしているはずである。それを十分に生かすことができているだろうか。自身の教師としての在り方も見つめさせられる、心に響く言葉を紹介いただいた。

 最後に、コーチングで主に行われるスキルについて具体的な場面をもとに紹介いただいた。大変短い時間の中での説明であったことがとても申し訳なかったが、「質問」について、ご説明いただいた。

 基本的には、はい、いいえで答えられないようなオープンクエスチョンであること、「広げる、深める、意味を問う」など、質問のねらいを明確にもつことなどはとても参考になることであった。特に、「問われる側が答えを知らない質問」であることが肝要、というお話は、まさに真逆になっているような場面が多くあったかもしれないと、これまでの実践を反省させられるものであった。

最後に 

 今回の木村氏のお話は、音楽科の授業においてのみならず、人材育成の視点からもとても勉強になるものであった。現在の若年層の大量採用かつ多様化の現状を鑑みると、中堅以上の教員がもつべき人材育成についての在り方や考え方はとても重要である。

 相手をいかに信じることができるか?コーチングにおいても、コーチング的な関わりにおいても、ティーチングであろうと、やはり、ベースとなる相手との信頼関係が最も大切であると、最後に木村氏は強く言われた。ティーチングの場面も学校では多く存在する。やはり相手との信頼関係があってこそ、意味のあるティーチングや提案になり得ること、しっかりと胸に刻んでおきたい。

 そして、子供たちや先生方がもっている感性や創造性を信じたい。だってみんな想像力と才知にあふれ、欠けるところのない存在であるのだから。このことはひいては、私たち教員が子供の上に立つ偉い存在でも完璧な存在でもないことにも気付かせてくれた。分からないことがある時、悩んだ時は信頼している「相手に聞いてみる」というある意味基本の「き」をあらためて大切にしていきたいと考えた。

参加者のアンケートから

 以下は、参加された方の感想です。皆さんの心に多く響いたものがあったことがよくわかります。

  • コーチングの勉強、私もしたいと思います!そもそも「信頼関係」って・・・?を問い直したいと思いました。
  • どのゲストの方のお話もおもしろく、参加できて本当に良かったです。一つだけ選ぶとしたら、今朝の木村さんのコーチングのお話です。授業の中で生徒の発言を繋ぐことを大切にするにはコーチングを意識する必要がありそうだなと感じました!
  • 木村さんのコーチングのお話、短い時間でしたがとてもわかりやすかったです。とても刺激になりました。ありがとうございました。
  • コーチングの木村さんの講演は自分自身を振り返るきっかけになりました。音楽科の教員ですが、音楽の授業だけが仕事なわけではなく、また、様々なICTのツールや先進的な使用方法は魅力的でもありますが、結局のところ、私が求めているスキルは、音楽科に限らない学習指導法なのだと尚更考えるようになった時間でした。
  • 自分の日頃の言葉かけを振り返る機会になりました。子どもの可能性を信じ、ティーチングとコーチングを意識しながら子どもたちの力を引き出していけるよう努力したいと思います。

木村様、大変多忙な中、短い時間でとても中身の濃いお話、本当にありがとうございました!!

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